あの屋台は何を運んでいたのか

へんてこ屋台 まちを歩く(アルケノード プロトタイプZINE)/ 編集委員会 座談会
収録 2026年8月6日(木)

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眠れない日々を超えて

市根井

アルケノード シーズン1、お疲れ様でした。気分はどうですか?僕はシンプルに、いいイベントだったなーと思ってます。毎回友達も増えるし、いい話も聞けるし。まち歩きは大変ですけど、その後のトークも熱いですし。

田中

いやー、ホッとしてますよ。思い描いてたものが受け入れられるのか、本当に面白いと思ってもらえるのか。アイデアが面白いのと、やってみて面白いのって違うから、その実感が得られないと続けられないなと思っていて。単発のイベントなら一回やって、良くも悪くも終われるんだけど、今回は「九回やります」って言っちゃった分、一回目でスベって二回目から参加者ゼロになったら、それを九回やることになるわけで。

田中

実はさ、不安で寝れない時期があったんだよね。一回目をやって、来てくれた人の反応を見たところで、ちょっと肩の荷が下りた感じがした。

寺澤

自分はそんなに心配じゃなかったな。マチスタント田中さんプレゼンツだし、ある程度は集まると思ってましたよ。ただ、予想外だったのは、全く自分たちと関わりのない人たちが、ちゃんと情報をキャッチして参加してくれたっていうところ。それは結構びっくりというか、面白いなと思いました。

田中

参加者は初めましての人が多かったよね。逆に、もともと来てくれるかなとイメージしてた人たちは、意外と来なくて。その代わり、まちで手を振ってくれたり、「インスタで見てます」と声かけてくれたり。それぞれの方法で参加してくれました。

市根井

意図して実行して、うまくいったな〜と手応えを感じていることってありますか?

寺澤

ラジオ体操じゃないですか。あれはよかった。屋台を引いて歩くときは、普段使わない筋肉を動かすし。

※ 第2回目から、まち歩き前に本屋水紋の2階でラジオ体操を実施
市根井

確かに。やっぱりラジオ体操ってちょっとだけ恥ずかしいんで、儀式としても良かったですね。「なんか始まるぞ」という。

田中

ちょっと恥ずかしいことやろう、普段やらないことやろう、っていうのは、コンセプトの一つだったしね。その他には、パンチラインと、毎度の簡易記録を作ったこともやってよかったと思う。前回はどんなことがあったんだろう、って気になって見に来てくれる人もいた。

意味わからんまま歩く

市根井

まち歩きとトークを、セットでやったことについてはどうですか。

田中

自分の業務の中では、「喋ってからまち歩き」っていうのはよくあるんですよ。まちの紹介をして、それを実際に見に行きましょうと。アルケノードはその逆だったわけだよね。

市根井

ゴールを決めてからそこを見に行くんじゃなくて、「なんかわかんないけど歩いてから話を聞く」みたいな。

田中

トークが先だと、「出てきたところを確認しに行く」みたいになるから、真面目になりすぎちゃうような気がしてて。学びとしてはいいのかもしれないけど。

寺澤

そうですね。トークからまち歩きのほうが理解しやすいけど、それ以上のことは起こらない。

田中

「意味わかんないまま歩く」っていう呼びかけに対して、どんな人が来てくれるんだろう、っていう、ちょっとした実験でもあったね。

市根井

誰も来なかったら我々三人で屋台を引くことになってましたね。自分はそれでも良かったですけど。

田中

屋台を搬出して搬入するだけのイベント……😂

寺澤

しかも、四回開催して、そのうち二回が雨ですからね。怒られることがなくてよかったです。

田中

みんな優しいよね。だってさ、人が着てたポンチョを着回していくの、嫌でしょ普通。でも、みんな満身創痍だったからね。

寺澤

僕、自分のこと晴れ男だと思ってたんですけど。今回の件でめちゃくちゃ雨男だって気付かされました。僕が欠席した三回目が一番天気良かったし。

市根井

四回目とか、もはや山登りみたいな感覚がありましたよね。雨の中、あんな重いものを引いて。もうやるしかない、進むしかないみたいな。

田中

それでいて、全部の回で参加者数にそこまで差がなかったのは不思議だったな。

市根井

あの天気で、あの人数がいたのはすごかったですね。まあ、普通はイベント自体を中止するんだろうけど😂 天候に左右されないまち歩きって、革命かもしれないですね。

語りを通して出会いなおす

田中

ゲストのみなさんって、僕がマチスタントとして開業に関わった方々なんですよ。それぞれの活動はたくさん見てきたけど、「どんなことを考えながらやってるか」とか「どんなルーツがあるのか」っていうのは初めて知ったんだよね。何を考えながらやってるかって、メニュー表を見てもわからないから。そこの裏側にある言葉をちゃんと聞けたのは、よかったなと思ってて。

寺澤

もともと、「ルーツの話をしてください」っていう呼びかけをしてたんですか?

田中

そう。「お店の魅力」よりも、「なんで今前橋に立っているのか」みたいなことが聞きたいと思ってたんだよね。

寺澤

それ結構ナイスですよね。まちで仕事や活動をしている人って、すごくキラキラして見えるけど、子どもの頃の話とかを聞いてみると、共通点があったり、同じことを考えていたりするので、面白いですよね。

市根井

シーズン2のゲストのひとりでもある指出一正さんが『オン・ザ・ロード2 スーパーウェルビーイング』という本の中で、関係性は「いる・なる・する」という順で発展する、みたいなことを書かれてたんですけど、大人は「する」で知り合うのが普通なんですよね。コーヒーを飲みたいからコーヒー屋さんに行く、という、「まちの機能」としてまちの人と関わることはできる。でも、それ以前に「人として出会う」というか。そういう出会い方、出会いなおすみたいなことができるっていうのが良かったですよね。そのためには、ルーツを聞くっていうのは、すごく有効だったと思います。

今のまちの姿は二度と作れない

市根井

やってみて意外だった、そうなんだ〜と初めて知ったことはありますか?

市根井

自分は、「みんな川が好きなんだ」ということ。ゲストのみなさんに「休みの日にどう過ごしたいですか」と聞いたら、多くの人が広瀬川を挙げていました。CASA FRESCOの野口さんは、開業の理由として「広瀬川が近くにあるから」と言っていましたよね。第1回でMegさんが言っていたように、「みんながそれぞれの川を広瀬川に投影している」のかもしれないと思って。

市根井

もう一つ、なくなったお店のことを切なそうに語るゲストが何名かいましたよね。「あそこがなくなっちゃったんだよね」みたいな。実際ここ最近、いいお店が、後継者が見つからなくてなくなることが多いですよね。

市根井

まちなかには、使命感を持った、新しいお店がたくさんできていますが。それと同時に、元のまちではなくなっていくので、新しいことをやればやるほどに、過去に対する名残惜しさみたいなのもトークからは感じました。

田中

それぞれに思い入れがあったからこそ、その言葉が出てくるんだろうなって思います。でも、前橋に限ったことじゃなくて、全国で似たような状況になってきてるわけで。その中で前橋は、終わるものがあるだけじゃなくて新たなものが始まってもいる稀有なまち、っていう見方もできるよね。終わることはさみしいけど、ネガティブになりすぎてないというか。

田中

でも、長くやってきたお店の、あの空気が二度と作れないというのも事実。その儚さっていうのは確かにあるね。さらに前は、今よりもっと人がいたまちだからこそね。そういう「変化」を経験してきてる、っていうのも前橋らしさの一つだと思う。

市根井

60代の方とかに話を聞くと、「前橋のまちなかは、肩がぶつかるぐらい人が歩いてた」って言ってましたもん。プリクラの最新機種がまちなかにあるからみんなで行くぞ!とか。シティボーイ、シティガールはこの前橋のまちなかに最新のものを求めてやってきてた、ってことですからね。

寺澤

いやー、このまちがそうだったなんて、全然想像つかないですけどね。「本当かよ」って。映画とかドラマみたいな感じですよね。現実味がないというか。

市根井

その時代を体験している世代と、人が歩いてないところしか見たことがない世代と。さらには「今の前橋」以降しか知らない世代。まちに対する考え方が全然違う世代同士が、同じまちに関わっていくんですね。

市根井

僕は32歳で、ちょうど「人が全然歩いてないまちなか」を見たことがある世代なんですけど。ここ10年で本当に変わったと思います、このまちは。

作ってよかった、謎の屋台

市根井

「屋台」があったっていうのがヘンで良かったなと思っていて。外から見ても、一番不思議だったポイントはここだったと思うんですよね。まち歩きもトークも意味が分かるけど、屋台の意味が分からない。意味がわからない要素があるっていうのは、個人的に大事なことだと思ってます。

寺澤

みなさん、よく順応してくれましたよね。特に説明もしてないのに。巻き込まれ力が高い😂

田中

屋台にはエンジンもないし、ブレーキもないっていうのがすごくいいなって思って。速度の調整とか、道の勾配に左右されるとか、凸凹のところはめっちゃ動きづらい。ただ歩いているだけだと意外と気づかないんだけど、屋台を引いていると手が揺さぶられて、体全体、特に足に"くる"んですよ。

田中

身体的にまちを体で感じるから、めっちゃダイレクトに路面状況が伝わってくるよね。自転車のタイヤはクッション性があるけど、この屋台はパンクしない作りのもので、常にパンパンだから、跳ねるんだよね。そしてとにかく重いから、坂から転がり落ちないように気をつけないといけない。

寺澤

まちからの影響を受けるための装置、って感じですよね。

市根井

「一緒に歩く」ということを目的としたまち歩きって、斬新だったと思います。そのためにはやっぱり屋台が必要だった。みんなで歩く、ゆっくり歩くということの口実になったというか。

田中

いつも「本屋水紋」の前で集合してるんだけど、まちの人たちもこれ(屋台)が何なのか気になってたみたいで。水紋の目の前にブティックがあるんですよ。そこの店主さんとはほとんど面識がないのに、こないだ「あ!これ!面白いことしてるなって思ってさ。これ何やってんの?」って興味津々に話しかけてきてくれて。

田中

いわゆる「まちづくり」を仕事でずっとやってるけど、老舗の人ってあんまり、業務の中で関わることが少ないんだよね。商店街の理事とかと話す機会はあるんだけど、いち店主とお話するというのは中々ない。そんな中で声をかけてもらえたっていうのは、すごいきっかけになって。しかも面白がってくれてたっていうのは、自分としては嬉しかったことだね。

市根井

田中さんが僕と寺澤さんに相談してくれた段階で、「屋台」っていうことはもうアイデアとして持ってきてましたよね。どうして屋台をやろうと思ったんですか?

田中

『日本のまちで屋台が踊る』っていう、屋台の書籍があるんですよ。屋台界隈ではメジャーな本なんだけど。これを読んでいて、まちでアクションをする時に屋台が便利なツールであるということを、なんとなく覚えてて。

田中

最初のうちは、「屋台にどんな機能を持たせるか」というところまでイメージできてたわけじゃないけど、屋台をみんなで引いている光景を見た人に、「芸術祭やってんな〜」って感じてもらいたいなとは思ってた。最終的には機能も目的も背負った、パーフェクトな屋台になったと思ってる。塗装や組み立ても、いろんな人に手伝ってもらえたし。

市根井

ここ1年の僕の中のキーワードが、「実力より迫力」なんですけど。AIを始め、テクノロジーが普及していくと、人の実力差というものはなくなっていく。それこそライターという仕事は、実際になくなってきてます。AIを使って、みんなのライティング能力が底上げされた結果です。その中でどうやって差別化をするかみたいなことを考えると、実力で勝負するよりも迫力なんだと。

市根井

迫力を出すためには、やっぱり物理的にデカいとか、変な動きをするとか、そういうことが結構重要で。その点ではやっぱりこの屋台があることが大事だったなと思います。ただ「まち歩きをやってます」ってだけじゃなくて、モノがあることによる迫力。雨の中をぞろぞろ歩くのも迫力。

寺澤

そう考えると、結構フィジカルなコンテンツですよね。

市根井

ほんとそう思います。一緒にクタクタになるみたいな経験は、やっぱりした方がいいですね。サウナと水風呂みたいな感じだから。

「なんですか、これ」から始まる

田中

体力的にキツかったからこそ、参加してくれた方の顔って、覚えてるよね。別の場所で会ってもお互いに認識できると思う。

市根井

大人になってから、知り合いをゼロから作れるっていうのは、貴重ですよ。

田中

ちょうど「知り合い」って感じだよね。全く知らないわけでもないけど、仕事が何かまではわかんない。

寺澤

アルケノードが何をする会なのか、よく知らない状態で参加してた人は結構いたかもしれないですけど、僕たちも何が起こるのかあんまり分かってないですからね。

市根井

「これ何なんですか」って質問に対して、「自分で考えてください」と言うしかないですからね😂

田中

確かに、このキャッチコピー(うろうろ歩け。意味はそれから。/謎の屋台に連れられて、わからなさを面白がってみる。)はすごいよね。イベントの呼びかけって、だいたい「皆さんぜひお越しください」なのに。

市根井

やっぱり「謎の」っていうのを、こっちが言っちゃうのはよかったと思います。「これ何ですか」って言われても、こっちも知らないっていう。

田中

いまだに、外部への屋台の紹介の仕方が決まってなくて。「謎の」って自分たちから言うのはおかしいか……?とか思ったりして。かといって屋台があるのって普通なことではないから、「屋台を引いて」とさらっと書くのも違和感があったんだよね。

寺澤

「謎の屋台」ぐらいが、ちょうどいいかもしれないですね。

田中

今後は堂々と「謎の」を入れよう。

市根井

そういえば、この屋台は、こんなに愛着があるのに、名前もないですからね。

田中

「アルケノード号」みたいな名前をつけたら、何かが終わっちゃう気もしたんだよね。

寺澤

子どもを連れている人に近い感覚かもしれないですね。子どもがいると、初対面でもその子の話から始められる。屋台があるだけで、相手との距離が縮まりますよね。

市根井

大人同士って、話し始めるのに理由が必要なんですよね。子どもとか犬とかを挟まないと、「最近仕事どうすか?」みたいな話しかできない。

田中

ぱっと見てよくわからない屋台だからこそ、「なんですか、これ」から話し始められる。週ごとにステッカーが増えたり機能が追加されたりしていて、それもコミュニケーションを生んでいた気がする。

屋台じゃなくてもいい

田中

ほとんどの人は、駅前の通り=まちなかだと思ってるんだけど、前橋のまちはそうじゃないんだよね。だから、学生さんとかには「前橋=駅前に何もないまち」だと思われてしまうことも少なくない。群馬のまちが今どうなってるかとかは、学校で教えてくれるわけでもないし。

市根井

正直僕は、駅から10分とか15分とかの距離を歩けるようになったのは、前橋のまちなかに仕事でもプライベートでも来るようになってからですね😂 それまでは車社会にどっぷり浸かってたから徒歩3分のコンビニでも絶対に車で行ってましたし、そういう人って本当に多いですよ。ただ普通に考えて、これって歩かなすぎだから、これぐらい歩こうぜっていう。この「徒歩のリテラシー」は、もうちょっと高くなってもいいかなって。

田中

最近は「小さなモビリティ」って呼ばれるようなものがあるんですよ。三人くらい乗れる自動運転のやつとか。これが便利で。そんな風にしていろんなところが研究開発して、移動の距離をどれだけ短縮できるかとか、心の距離を短くできるかとかが研究されてるわけだよね。

田中

アルケノードをモビリティ視点で見ると、この屋台は歩く時間が長くなって、その分ワクワクは倍になるみたいなことが起こってる。「時間を短くして便利になりました」じゃなくて、「時間が倍になって、友達が増えました」。

市根井

徒歩の時間と質を増幅する装置。

寺澤

やっぱり、ゆっくり移動するということこそが豊かさ。「歩く」ということの方が価値が高くなってますよね。

田中

動画を倍速で見るのと逆の発想だよね。そういう意味では、社会に小さくインパクトを生んでいるのかもしれない。

寺澤

まち歩きって、本来、誰かに急かされて歩くわけじゃないはずですよね。急いでまちを歩くのは、それはもう、ただの移動ですからね。まち歩きというものを、もう一度考え直したいですね。

田中

体を鍛えるために走るのと同じように、頭とか心を鍛えるためにゆっくり歩くみたいな。そう考えると、屋台にこだわる必要はなさそうだよね。竹馬とかでもいい。「わざわざゆっくり歩く」っていうのは、それだけで企画になりそう。

前橋の仮説

田中

シーズン2は「公開編集会議」ということで、ゲストのパーソナルなところに迫りつつ、「なんで編集者になったのか」みたいなことも含めて聞く会議みたいにしたいと思ってるんだよね。なるべく事前準備をせず、ぶっつけの対話型でやりたい。その後はしっかりしたトークイベントもあるから、そこでは出ないであろう話をなるべく聞いてみたいよね。

市根井

僕はシーズン2のみなさんに意見を聞きながら、最終的に「前橋の仮説」を作りたいと思っています。シーズン2が始まった時点では「問い」の状態くらいで、それぞれの方にぶつけたいと思っていて。

市根井

例えば、どうやら前橋のまちなかでは「川」っていうのが一個キーワードになっているっぽいということが分かった。そこで、「みなさんが見てきたまち、拠点にしているまちで、前橋で言うところの広瀬川みたいな存在ってありますか?」みたいなことを聞きたいなと思ってます。それはもしかしたら山かもしれないし、道路かもしれないし、店かもしれないですけど。たくさんの人が名前を挙げるものは、その場所らしさであり、人が集まるきっかけになっているかもしれないから、何かヒントが得られるのではないかと考えています。

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